前婚のお子さんには財産を渡したくない
こんにちは、行政書士・上級相続診断士の山田です。
今回は「前婚のお子さんには財産を渡したくない」と考えておられるご相談者様の事例をもとに、公正証書遺言の活用と、相続の基本知識、遺留分の問題などについてわかりやすく解説していきたいと思います。
目次
- ○ ご相談内容の背景
- ○ Aさんの財産の内訳
- ○ 相続における「法定相続人」とは?
- ○ 「遺言書」で意思を示すことの重要性
- ○ しかし、避けられない「遺留分」の問題
- ○ 遺留分を「最小限」にする工夫
- ・① 財産を全て妻に相続させる遺言を書く
- ・② 付言事項で前婚の子供たちに対する思いを書く
- ・③ 妻が遺留分に備えて現金を確保しておく
- ・④ 可能なら事前に前婚の子供と話し合いを行う
- ○ 公正証書遺言の作成手順
- ・財産目録の作成
- ・遺言内容の原案作成
- ・公証人との事前打ち合わせ
- ・証人2名の用意
- ・公証役場での作成と署名・押印
- ・謄本・控えの受け取り
- ○ まとめ
- ○ ご相談はお気軽にどうぞ
ご相談内容の背景
今回ご相談に来られたのは、都内にお住まいの60代の男性、Aさんです。Aさんは現在、再婚して20年以上が経過し、奥様との間に三人のお子さん(長男・長女・次男)に恵まれました。家族仲も良好で、現在も一家の大黒柱として働いておられます。
一方で、Aさんには前婚の際に生まれた二人のお子さんがいます。離婚後は疎遠になっており、現在もまったく連絡を取っていないとのことです。そのため、Aさんとしては「自分の財産は、今の妻とその間の子供たちにだけ渡したい。前婚の子供たちには一切渡したくない」という強いご希望をお持ちでした。
では、そのようなご希望を実現するためには、どのような方法があるのでしょうか?
Aさんの財産の内訳
まず、Aさんの現在の財産状況を確認してみましょう。
・マンション(自宅):約5,000万円
・預貯金:約500万円
合計:約5,500万円
このように、不動産と現金のシンプルな構成となっています。問題は、この財産をどのように現在の家族に引き継ぎ、前婚の子供たちの権利を最小限に留めるか、という点です。
相続における「法定相続人」とは?
次に相続の大前提として、誰が「法定相続人」となるかを確認しておきましょう。
Aさんが亡くなった場合、配偶者は常に相続人になります。そして、子供たちは「婚姻の有無」にかかわらず、すべて同じく「実子」として法定相続人になります。つまり、前婚の子供も、今の奥様との子供も、法的には区別されません。
よって、Aさんの法定相続人は以下の通りです:
・現在の配偶者(妻):1人
・子供たち:5人(前婚の子2人+現婚の子3人)
法定相続分では、配偶者が1/2、残りの1/2を5人の子供で等分(1人あたり1/10)することになります。
このままでは、前婚のお子さんにもそれぞれ1/10(約550万円相当)の法定相続分があるということになります。
「遺言書」で意思を示すことの重要性
Aさんは「前婚の子供たちには財産を渡したくない」と希望されています。このような意思をきちんと形にするためには、「遺言書」の作成が不可欠です。
特におすすめするのが「公正証書遺言」です。
これは、公証役場で公証人が作成する正式な遺言であり、偽造や紛失のリスクがなく、家庭裁判所での検認手続きも不要というメリットがあります。
Aさんはこの公正証書遺言で、すべての財産を現在の妻に相続させる旨を明記する予定です。これにより、法定相続分に関係なく、遺言による「遺贈」や「相続させる」処理が可能になります。
しかし、避けられない「遺留分」の問題
ここで注意しておきたいのが「遺留分」の問題です。
遺留分とは、民法で定められた「最低限の相続の権利」であり、一定の相続人(配偶者・子・直系尊属)には、たとえ遺言があったとしても「請求する権利」が残されているというものです。
子供には、法定相続分の1/2の遺留分があります。つまり、Aさんの全財産5,500万円に対し、前婚の子供2人にもそれぞれ275万円(=550万円×1/2)の遺留分権があるのです。
遺言で「一切相続させない」と書いたとしても、それだけでは無効にはなりませんが、前婚の子供たちが「遺留分侵害額請求」をしてきた場合には、妻や現婚の子供たちがその分を金銭で支払わなければならなくなります。
遺留分を「最小限」にする工夫
それでは、前婚の子供たちへの影響を最小限にするにはどうすればよいのでしょうか?以下のような工夫が考えられます。
① 財産を全て妻に相続させる遺言を書く
まず、遺言書の中で「すべての財産を妻に相続させる」と明記します。これにより、原則としては前婚の子供たちには何も渡らない形になります。
② 付言事項で前婚の子供たちに対する思いを書く
前婚のお子さんに対して、「これまで交流がなかったこと」「現家族の生活を守る必要があること」など、Aさんの思いを言葉で残すことも有効です。感情的な衝突を避けるために、できるだけ冷静かつ誠実な文面が望ましいです。
③ 妻が遺留分に備えて現金を確保しておく
万が一、前婚の子供たちが遺留分請求をしてきた場合に備え、遺された妻がその分を支払えるように、ある程度の預貯金や保険金などを確保しておくと安心です。
生命保険金は「受取人固有の財産」となるため、相続財産に含まれず、遺留分の対象になりにくいという特徴もあります。
④ 可能なら事前に前婚の子供と話し合いを行う
現実的には難しい場合もありますが、前婚のお子さんと話し合いの場を持ち、Aさんの考えを伝えることができれば、遺留分請求を防げる可能性もあります。誠意をもって説明することで、理解を得られるケースもあります。
公正証書遺言の作成手順
Aさんのようなケースでは、以下の流れで公正証書遺言の作成を進めていきます。
財産目録の作成
マンションや預貯金の詳細をまとめます。
遺言内容の原案作成
「妻にすべての財産を相続させる」旨を明記し、付言事項で本人の思いも記載。
公証人との事前打ち合わせ
事前に内容確認と相談を行います。当事務所にご依頼いただきましたら、公証人との事前のやり取りは当方にて行います。
証人2名の用意
当事務所にご依頼頂きましたら、証人2名は手配致します。
公証役場での作成と署名・押印
当事務所にご依頼頂きましたら、この時点で公証役場に一緒に出向いてもらい、証人2名と一緒に署名・捺印となります。
また、病院に入院中など公証役場に出向くことができない場合は、公証人・商人2名と一緒に病院などに行き、その場で署名・捺印も可能です。その場合は別途費用が必要になります。
謄本・控えの受け取り
遺言書の正本は公証役場に保管されますので安心です。
まとめ
Aさんのように、「前婚の子供には財産を渡したくない」という思いを持つ方は、決して少なくありません。しかし、法律上はすべての実子が平等に相続人となるため、その意思を実現するには「遺言書」の作成が必須です。
特に、公正証書遺言を活用することで、ご自身の意思を正確かつ確実に残すことができます。ただし、遺留分という法律上の制約があるため、それをどう配慮するかがポイントになります。
トラブルの種を少しでも減らすために、事前の準備と、信頼できる当事務所への相談をぜひご検討ください。
ご相談はお気軽にどうぞ
相続や遺言の問題は、感情や人間関係が絡む繊細なテーマです。
当事務所では、相続や事業承継、公正証書遺言の作成などに関するご相談を随時承っております。
「自分の家族にはどのような対策が必要か」「遺留分を減らすにはどうしたらよいか」といった疑問も、丁寧にサポートいたします。
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